愛犬を守る! 知っておくべき犬の胸腰部椎間板ヘルニアの知識 |症状から治療まで

犬の首から背中、腰にかけては太い脊髄神経が通っていて、その周りは椎骨という骨に守られています。さらに、それぞれの椎骨の隙間には椎間板という構造があり、緩衝材として機能しています。

胸腰部椎間板ヘルニアとは、背中から腰の椎間板の構造物(髄核や繊維輪)が変性して飛び出て、脊髄神経が押しつぶされることで起こる病気です。その原因によってハンセンⅠ型とハンセンⅡ型に分類されます。ハンセンⅠ型は中齢未満の若いころに突然起こり、ハンセンⅡ型は高齢になってから徐々に起こることが特徴的です。

今回は犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて、症状や治療方法などといった飼い主様も知っておくべき基本的な情報をご紹介します。

 

■目次
1.ハンセンⅠ型とハンセンⅡ型とは?
2.症状と進行度
3.診断方法
4.治療方法
5.術後管理とリハビリテーション
6.予後と長期的な管理
7.ご家庭での注意点
8.まとめ

 

ハンセンⅠ型とハンセンⅡ型とは?


 

ハンセンⅠ型胸腰部椎間板ヘルニアは変性した髄核が線維輪を突き破り、変性した髄核が線維輪を突き破り脱出した髄核そのものが脊髄を圧迫することで発症します。先天性かつ急性に起こることがほとんどで、ミニチュア・ダックスフンドやビーグル、ウェルシュ・コーギーといった軟骨異栄養犬種で遺伝的に多いことが知られています。

なお、ハンセンⅡ型は線維輪が変性して脊髄を圧迫することで発症します。

 

症状と進行度


胸腰部椎間板ヘルニアは、その症状と神経障害の度合いによって1〜5のグレードに分類されます。

 

<グレード1>

腰や背中に痛みを感じるものの、足の麻痺などの神経学的な異常は見られない状態です。

 

<グレード2>

立ち上がったり歩いたりできるものの、足の神経学的な異常が始まっている段階で、力の入りが弱まっています。

 

<グレード3>

力が入るため足を踏ん張りますが、麻痺が進行しているため、歩くことはできなくなります。

 

<グレード4>

力も入らず、完全に寝たきりの状態になります。また、自力での排尿もできなくなります。

 

<グレード5>

グレード4の状態に加えて、痛みを感じることができなくなります(深部痛覚の消失)。

 

胸腰部椎間板ヘルニアはグレードに関わらず、治療を始めないと基本的には症状は悪化してしまいます。ただし、その早さはタイプによって違いが見られ、ハンセンⅠ型では急速に進むことが多い一方で、ハンセンⅡ型ではゆっくりと進行していきます。

また、急性の脊髄障害に伴い、脊髄軟化症という病態に進行し命に関わることもあります。

 

診断方法


椎間板ヘルニアを含む神経の病気が疑われる場合、一番重要なのは神経学的検査です。というのも、足のふらつきや背中の痛みといった症状は多種多様な病気で現れるので、まずはどの神経のどの場所によって引き起こされているのか、おおまかに特定する必要があるからです。

神経学的検査では、姿勢反応、脊髄反射、脳神経の反応、知覚などの項目を確認します。そのほかにも、レントゲンやMRI、CT検査といった画像診断によって病変を詳細に調べます。

これらの検査によって、ウォブラー症候群や馬尾症候群、脊髄の腫瘍、股関節形成不全、膝蓋骨脱臼といった似たような症状を起こす他の病気と区別します。

 

治療方法


胸腰部椎間板ヘルニアに対する治療方法は、保存的治療と外科的治療に分類されます。

 

<保存的治療>

まずは動物に無理のない安静の確保を最優先します。少なくとも4週間は活動を制限していただき、その後にリハビリを始めます。リハビリの初期には、マッサージによる刺激や後ろ足の曲げ伸ばし運動を実施します。また、症状緩和の程度に伴い、起立運動やエクササイズなどを試してみます。それ以外には、消炎鎮痛剤やステロイドなどを用いた薬物療法も検討します。

 

<外科的治療>

例外はありますが基本的にはグレード3より重度の場合、手術が必要になります。ただし、正常に歩けていても痛みが激しいときは、グレードに関わらず手術を検討します。手術方法は多岐にわたり、背側椎弓切除術、片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)、小範囲片側椎弓切除術(ミニヘミラミネクトミー)および部分椎体切除術(コルペクトミー)などが挙げられます。どの術式を選択するかは病変部位の場所、程度や重症度によります。

 

なお、当院では今後内視鏡を用いた椎間板外科治療の導入を検討しています。
内視鏡外科については以下のような特徴があります。

 

【メリット】
<痛みが少ない>

・従来の開腹手術と比べて切開が最小限で済むため、術後の痛みが大幅に軽減されます。
・鎮痛剤の使用量も少なくて済むことが多いです。
・痛みが少ないため、術後のストレスも軽減されます。

 

<手術痕が小さい>

・2-3箇所の5-10mm程度の小さな切開口で手術が可能です。
・毛が生えてくると傷跡がほとんど目立たなくなります。

 

<組織の損傷が少なく機能回復が早い>

・最小限の切開で行うため、周辺組織へのダメージが抑えられます。
・回復が早く、通常の生活に戻るまでの期間が短縮されます。
・入院期間も従来の手術と比べて短くなることが多いです。

 

<病変部位を詳細に確認できる>

・内視鏡カメラで拡大された映像を見ながら手術を行えます。
・肉眼では見づらい細かい血管や組織も確認でき、より正確な手術が可能になります。

 

【デメリット】
<手術時間が長くなる>

・細かい作業を慎重に行う必要があるため、時間がかかります。
・麻酔時間も長くなるため、その点での負担を考慮する必要があります。

 

<費用が高額になる>

・手術時間が長くなる分の費用が加算されます。
・専門的な機器や技術が必要なため、従来の手術より費用が高くなります。

 

術後管理とリハビリテーション


術後の合併症として一般的なのが排尿障害です。そのため、うまく排尿できない場合にはオムツの着用なども検討する必要があります。

また、胸腰部椎間板ヘルニアは手術だけで治るわけではないので、術後は回復のプロセスに応じて段階的なリハビリが必要になります。まずはマッサージによる刺激などから始め、様子を見ながら屈曲運動や起立運動、サイクルトレーニングなどを徐々に取り入れていきます。

 

予後と長期的な管理


低グレードであれば術後の回復も早く、その後も長く健康に過ごすことができます。一方で術前の麻痺が重度の場合、運動機能の回復には時間がかかり、麻痺が完全に治らないことも多々あります。また、手術自体はうまくいっても再発する可能性があるので、歩けるようになった後も定期的に動物病院を受診し、健康状態をチェックすることが大切です。

さらに長期にわたって運動機能を維持するには、生活環境を整えてあげることがポイントになります。ご家庭でケアする際には、足腰に負担をかけないよう、愛犬が生活するスペースには滑りにくいカーペットなどを敷く、段差にスロープを設置する、といった工夫が挙げられます。

 

ご家庭での注意点


椎間板ヘルニアは重症化すると、治療後も麻痺が残るケースがあるため、早期発見が重要です。ご家庭では、愛犬の背中や腰に痛みがないか、後ろ足に力が入っているか、などをチェックし、少しでも気になることがあれば早めに動物病院を受診しましょう。

また、体重管理や適度な運動によって肥満を防ぎ足腰の筋肉を維持することも、予防につながります。

 

まとめ


椎間板ヘルニアは、脊髄が押しつぶされることでさまざまな神経症状が起こる病気です。治療は保存的あるいは外科的治療に分かれ、術後はリハビリを実施して運動機能の回復に努めます。

なお、足のふらつきなどが見られる場合は、神経病を専門にする獣医師に相談することをお勧めします。その理由は、正確な病変の位置を把握するにはCTやMRIが必要で、治療後もリハビリなどの包括的なケアが長期にわたって必要になるためです。

 

 

<参考文献>
ACVIM consensus statement on diagnosis and management of acute canine thoracolumbar intervertebral disc extrusion – PMC (nih.gov)

 

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