犬のPDAは手術で治る?|動脈管開存症の原因と対応法

みなさんは、動脈管開存症(PDA)という病気をご存じでしょうか?
PDAとは、生まれた後に自然と閉じるはずの血管(動脈管)が開いたまま残ってしまう先天性の心臓病です。この状態が続くと血液の流れに異常が生じ、心臓や肺に大きな負担がかかることがあります。

PDAをはじめとする心臓の病気は、見た目ではなかなか気づきにくいため、健康診断で偶然発見されることも少なくありません。そのため、突然の指摘に驚き、「どうしたらいいのだろう…」と不安を感じる飼い主様もいらっしゃいます。

しかし、PDAは早期に発見して適切な治療を行えば、多くの場合で健康な生活を送ることができる病気です。特に外科手術によって完治が期待できるケースがほとんどのため、過度に心配する必要はありません。まずは落ち着いて動物病院で詳しい検査を受け、今後の治療方針について相談してみましょう。

そこで、今回は犬の動脈管開存症(PDA)について、仕組みや症状、診断方法、治療の選択肢、そして術後の生活管理のポイントなどを解説します。

 

■目次
1.動脈管開存症(PDA)とは?基本的なメカニズム
2.症状
3.犬種による発症リスクと遺伝的要因
4.診断方法と検査の流れ
5.PDAの治療方法|手術的治療と非手術的アプローチ
6.手術後の回復と長期的な予後
7.まとめ|早期発見・早期治療がカギ

 

動脈管開存症(PDA)とは?基本的なメカニズム

胎児期(母犬のお腹の中にいるとき)の犬は、肺を使って呼吸をしていないため、肺を通さずに血液を全身へ送る必要があります。このときに重要な役割を果たすのが、「動脈管」と呼ばれる血管です。動脈管は肺動脈と大動脈をつなぎ、血液が肺を通らずにバイパスできるようにする通り道の役割を担っています。

 

<img src="小幡緑地どうぶつ病院様_犬の動脈管開存症(PDA).png" alt="犬の心臓の構造と動脈管開存症(PDA)の違いを示した図。左側は正常な血流を示し、右側は大動脈と肺動脈の間に動脈管が開存している状態を示している。" />

 

通常、動脈管は出生後すぐに自然と閉じますが、何らかの理由で閉じずに残ってしまうことがあります。この状態が「動脈管開存症(PDA:Patent Ductus Arteriosusの略)」です

動脈管が開いたままだと、全身に送るはずの血液の一部が肺動脈に流れてしまい、肺や心臓に過剰な負担がかかってしまいます。

 

症状

犬がPDAを発症すると、以下のような症状が現れることがあります。

 

・散歩や運動中にすぐ疲れる
・咳をすることが多い
・呼吸が浅く、早くなる
・体重がなかなか増えない
・食欲不振

 

しかし、中にはまったく症状が現れないケースも少なくありません。そのため、健康診断の聴診時に「心雑音がある」と指摘されて初めてPDAの存在に気づくこともあります。特に「機械様雑音」と呼ばれる、ゴーッという連続的な音が心音に重なる形で聞こえるのが特徴で、その音が診断の重要な手がかりとなります。

また、PDAを放置した場合、心臓にかかる負荷は徐々に増し、やがて心不全や肺水腫、肺高血圧など重篤な合併症を引き起こすことがあります。さらに悪化すると、動脈管内での血流の方向が逆転して肺動脈から大動脈へ流れ込む「アイゼンメンジャー症候群」に進行する可能性もあります。この場合の手術は禁忌であり、治療が困難になるため早期の対処が望まれます。

 

犬種による発症リスクと遺伝的要因

PDAはすべての犬種に発症しうる先天性心疾患ですが、特に小型犬種に多く見られる傾向があります。PDAの発症が報告されている代表的な犬種は、以下の通りです。

 

・マルチーズ
・ポメラニアン
・チワワ
・トイプードル
・ヨークシャーテリア
・キャバリア・キングチャールズ・スパニエル
・シェットランド・シープドッグ など

 

性別ではメス犬にやや多い傾向があり、遺伝的な要因も関与していると考えられています。そのため、繁殖を計画されている場合には、家系にPDAの既往がないかを事前に確認し、慎重な判断が求められます。

また、PDAの多くは子犬期の健康診断やワクチン接種の際に行われる聴診で発見されることが多いですが、中には成犬になってから別の目的で検査を受けた際に偶然見つかる場合もあります。

 

 

診断方法と検査の流れ

PDAの診断は、以下のような流れで行います。

 

①聴診・触診

前述したとおり、PDAの犬では「連続性雑音」と呼ばれる独特な心音が聞こえることが多く、聴診の段階で異常に気づくケースもあります。雑音が確認された場合、精密検査を行う必要があります。

また、内股にある大きな動脈(大腿動脈)の触診で、「バウンディングパルス(反跳脈)」という特徴的な脈拍により気づくこともあります。

 

②胸部レントゲン検査

胸部のレントゲンで心臓の大きさ(心拡大の有無)や肺の状態(肺血管の拡張)を確認します。血管の異常な走行(下行大動脈近位の隆起)もこの検査でチェックできます

 

③心エコー図検査(心臓超音波検査)

レントゲン検査に加え、動いている心臓の中をリアルタイムで映し出す心エコー図検査を行います。開いたままの動脈管や異常な短絡血流を視覚的に確認できます。PDAの確定診断には欠かせない重要な検査です。

 

④血液検査・心電図検査

手術を検討する際には、全身状態の把握と麻酔リスクの評価が必要です。そのために血液検査で内臓機能や炎症反応などを確認し、心電図で不整脈がないかをチェックします。

 

⑤診断結果の総合評価と治療方針の決定

これらすべての検査結果をもとに、PDAの重症度や全身への影響を評価し、治療方針を検討します。ほとんどの場合、検査は1時間程で完了し当日中に治療の選択肢をお伝えすることが可能です。

 

なお、飼い主様には愛犬の既往歴や親犬・兄弟犬の健康状態などの情報をご共有いただけると、より正確な診断に役立ちます。可能であれば、初診時にお持ちの健康記録をご持参ください。

 

PDAの治療方法|手術的治療と非手術的アプローチ

PDAの治療は、開いた動脈管を物理的に閉じて、血液の異常な流れを止めることが目的です。主な治療方法は以下の2つです。

 

<開胸手術(PDA結紮術)>

最も一般的な治療で、胸を開いて動脈管を直接視認し、専用の糸でしっかり縛って閉鎖する方法です。確実性が高く、小型犬でも高い成功率が報告されています。

 

<血管内治療(カテーテルによる閉鎖術)>

最近では、一部の施設でカテーテルやコイルを使った低侵襲治療も増えています。太ももの血管からカテーテルを挿入し、心臓内でコイルやプラグなどのデバイスを使って動脈管を閉鎖する方法です。身体への負担が少ない半面、超小型犬や動脈管が大きすぎる場合には実施が難しいこともあります。

 

どちらの治療を選ぶかは、犬の体格や年齢、動脈管の大きさ、施設の設備、担当獣医師の経験などを総合的に判断して決定されます。

また、手術のタイミングとしては、生後2〜6か月頃が理想とされていますが、発見が遅れても手術可能な場合は多くあります。年齢だけで諦めず、まずは当院にご相談ください。

なお、内科的管理(薬のみでの対応)はあくまで一時的な延命措置であり、PDAを治す方法ではありません。根治を目指すには外科的あるいは血管内の治療が不可欠です。

 

手術後の回復と長期的な予後

PDAの手術は、成功率が90%以上と報告されています。術後の合併症はまれですが、出血や血圧の急変といったリスクがゼロではないため、手術後数日は慎重な経過観察が必要です。

一般的な入院期間は3〜7日程度で、状態が安定すれば退院となります。ご自宅でのケアとしては術後2週間ほどは安静を心がけ、以下のようなサポートを行いましょう。

 

・ジャンプや激しい運動を避ける
・傷口の観察と管理
・処方された内服薬の正しい服用
・食欲や呼吸の状態のチェック

 

退院後は、1か月ごとなど定期的に通院して心臓の機能や再発の兆候がないかを確認します。経過が良好であれば、特別な制限はほとんどなく、元気に日常生活を送れるようになります。実際にPDAを治療した犬たちの多くが、その後は他の犬と変わらない生活を送ることができています。

 

まとめ|早期発見・早期治療がカギ

動脈管開存症(PDA)は、先天性の心疾患の1つですが、早期に発見して適切な治療を行えば、犬の健康を守ることができます。特に子犬期の健康診断やワクチン接種のタイミングは、重要な発見のチャンスです。

「今は元気そうだから大丈夫」と思わず、定期的な健診を受けておくことで、目に見えない病気のリスクを早期に把握することができます。

当院では、国際獣医専門医資格(ISVPS)を持つ総合臨床医の院長が、診断から手術、術後のフォローまで責任をもって対応いたします。手術に踏み切るべきかどうか迷われている段階でも、どんな小さなご不安でも構いません。どうぞお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

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