首、背中、腰まで続く骨(椎骨)の中には太い神経の束(脊髄)が通っていて、動物の手足や臓器にさまざまな神経の信号を送っています。個々の椎骨の間には椎間板と呼ばれるクッションのような構造があり、走る、ジャンプをするといった運動による衝撃を吸収する役目を果たしています。
頸部椎間板ヘルニアとは首の椎間板が変性し、脊髄が押しつぶされることで起こる神経の病気です。その原因によってハンセンⅠ型とハンセンⅡ型に分類されます。ハンセンⅠ型は中齢未満の若いころに突然起こり、ハンセンⅡ型は高齢になってから徐々に起こることが特徴的です。
今回は犬の頸部椎間板ヘルニアについて、どうすれば早期に発見でき回復に導くことができるのかなどをご紹介します。
■目次
1.症状の特徴
2.診断方法
3.治療方法
4.術後ケアと回復過程
5.長期的な予後と生活の質
6.ご家庭での注意点
7.まとめ
症状の特徴
頸部椎間板ヘルニアは、その症状と神経障害の度合いによって1〜3のグレードに分類されます。
<グレード1>
典型的には首に痛みを覚えます。また、首を撫でられることを嫌がる、頭を下げたまま上目遣いで目線を合わせる、痛みで震えるなどの症状が見られます。この段階では、痛みはあっても手足の麻痺などの神経症状は見られません。
<グレード2>
グレード1の痛みとあわせて、前足に神経症状が現れます。力をうまく入れることができないため、歩くときにふらつき、よろめくような様子が見られるケースもあります。
<グレード3>
歩くことも立つこともできなくなります。首の痛みは強く現れたり、逆に痛みを感じなくなったりする場合もあります(深部痛覚の消失)。QOL(生活の質)を改善させるためには、緊急の対応が必要になります。
このように椎間板ヘルニアは進行性の病気のため、治療せずにいるとどんどんグレードが悪化してしまいます。また胸腰部椎間板ヘルニアとは違い、麻痺は前足に現れるという特徴があります。
診断方法
まずは問診や身体検査で全体の様子を観察し、神経学的検査を実施します。あわせて、CTやMRI検査、場合によっては脊髄造影といった高度な画像診断も重要になります。
レントゲンや神経学的検査は、大まかな場所の推測はできますが、細かい構造の変化や位置の特定には不向きです。特に手術を行う場合は、CT、MRI検査、脊髄造影といった検査の結果を比較して、正確な情報を得ることが重要になります。
こうした検査によって、環椎軸椎亜脱臼や脊髄空洞症、頸椎の奇形など、似たような症状を示す他の病気と区別することができます。
治療方法
頸部椎間板ヘルニアに対する治療方法は、保存的治療と外科的治療に分かれます。
<保存的治療>
手術を実施しない場合、少なくとも4週間以上は安静に過ごす必要があります。その際、頸部を固定する装具(コルセット)を使うと、より効果が期待できます。また、痛みを抑えるために鎮痛剤や筋弛緩剤などの薬物療法を選択することもあります。
<外科的治療>
痛みだけでなく神経症状が見られる場合、手術を検討します。さらに呼吸不全にまで陥っている場合は、緊急の対応が必要です。手術方法は主に以下の3つがあります
■腹側減圧術(ベントラルスロット)
首の腹側(喉の方向)からアプローチし、頸椎に小さな穴(スロット)を開け、脊髄を圧迫している椎間板物質を取り除きます。明らかに1か所で強い圧迫がある場合の第一選択となります。穴が小さくて済むため、犬への負担が少ないのが特徴です。血管や神経、気管といった重要組織を適切に保護することで、長期的な予後は良好です。
■背側椎弓切除術(ドーサルラミネクトミー)
頭の後ろから肩甲骨付近までの背中側から進入し、脊椎の背側にある椎弓と棘突起を取り除くことで脊髄への圧迫を軽減します。腹側減圧術と比べて広い範囲の骨を削るため手術の侵襲性は大きくなりますが、手術時の視野が広く確保でき、複数箇所で発生しているヘルニアに対して有効な手術法です。
■片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)
背中側もしくは横からアプローチし、関節突起と椎弓の片側を切除することで、脊髄を圧迫している椎間板物質を除去します。椎間板物質が左右どちらかに偏って脱出している場合に選択されます。手術時の視野が狭く出血のリスクも高いため、熟練した技術が必要です。
手術方法の選択は、ヘルニアの状態(単発か多発か)や位置(正中か片側か)、症状の重症度などを考慮して、最適な方法が選ばれます。
術後ケアと回復過程
術直後は頸椎がまだ不安定で、手術による痛みも残っているため、厳しく運動を制限したうえで安静に過ごす必要があります。
痛みがなくなり回復期に入ったら、術前に検討したリハビリテーションプログラムにしたがって徐々に運動を再開します。手足の曲げ伸ばしや立つ・歩くといった動作など、ご自宅でもできる範囲でリハビリを取り入れて、運動機能の回復に努めましょう。
長期的な予後と生活の質
術後の回復には術前の症状が関係します。重度の麻痺が見られた場合、術後も麻痺が残ることが多く、リハビリを進めてもQOLを維持できない可能性があります。
また、手術自体がうまくいったとしても再発するケースもあります。そのため、再発の可能性を念頭に置いていただき、術後も定期的に動物病院を受診することで、細やかにチェックすることをお勧めします。
ご家庭での注意点
ご家庭では、首に負担をかけないようにすることが重要です。そのため、首輪ではなくハーネスを使うことも検討しましょう。そのほかにも、長時間の激しい運動は椎間板に悪影響を及ぼす危険性があるため、控えましょう。
まとめ
犬の頸部椎間板ヘルニアは、首の痛みや前足の麻痺などの症状が現れる神経の病気です。重度の麻痺にまで進行してしまうと、呼吸不全が見られることもあるため、早期診断・早期治療がとても大切です。
また、術後は獣医師のフォローアップを受けながら、リハビリテーションプログラムに沿って段階的に運動を始め、運動機能を戻していくことがポイントになります。
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