これまで元気だった愛犬や愛猫に、突然「レントゲンに影がある」「肺に腫瘍の疑いがある」と告げられたら、不安を感じる飼い主様は少なくありません。
さらに、「肺葉切除」という聞き慣れない手術名を耳にすると、「本当に手術が必要なのか」「うちの子に大きな処置が耐えられるのか」「麻酔は問題ないのか」など、さまざまな不安や疑問が浮かぶと思います。
そこで今回は、犬や猫の肺に腫瘍や膿瘍が見つかったときに考えるべきこと、そして「肺葉切除」という手術の内容や流れについて、わかりやすく解説します。
■目次
1.肺の腫瘍や膿瘍とは?症状と発見のきっかけ
2.主な症状と発見のタイミング
3.診断から手術の決断まで|必要な検査と考慮すべきポイント
4.獣医師との対話とセカンドオピニオンの大切さ
5.肺葉切除術とは?手術の流れと入院期間
6.術後の回復と在宅ケア|ご家庭でできるサポート
7.予後と長期的な管理|術後のフォローアップ
8.まとめ|専門医との二人三脚で乗り越える
肺の腫瘍や膿瘍とは?症状と発見のきっかけ
肺に発生する代表的な疾患として、主に以下の2つが挙げられます。
<肺腫瘍>
肺腫瘍とは、肺の細胞が異常に増殖し、しこり(腫瘍)をつくる病気で、大きく分けて以下の2種類があります。
・原発性腫瘍:肺の中で直接発生する腫瘍で、発生頻度は高くないものの、高齢の犬や猫で見られることがあります。
・転移性腫瘍:乳腺腫瘍や骨肉腫、メラノーマなど、別の部位にできた腫瘍が肺に転移して発生する腫瘍で、比較的よく見られます。
<肺膿瘍>
肺膿瘍とは、肺の中に膿がたまった状態を意味し、主な原因は感染症や外傷などです。
猫の場合、咬傷や交通事故など外傷性の胸腔感染がきっかけとなることもあります。特に、FIV(猫免疫不全ウイルス)やFeLV(猫白血病ウイルス)などで免疫力が低下している猫では、重症化しやすいため注意が必要です。
主な症状と発見のタイミング
肺に腫瘍や膿瘍ができた場合、以下のような症状が現れることがあります。
・咳が長く続く
・呼吸が荒くなる、早くなる
・少し動いただけで疲れやすくなる
・食欲や元気の低下
・体重の減少
・高熱(膿瘍の場合)
ただし、これらの症状は病気が進行してから現れることが多く、初期にはまったく症状が見られない場合もあります。そのため、健康診断やほかの目的で撮影したレントゲン検査で、偶然見つかることもあります。
そのようなケースを見逃さないためにも、年に1回以上の健康診断や胸部レントゲン検査を定期的に受けておくことが、病気の早期発見につながります。
診断から手術の決断まで|必要な検査と考慮すべきポイント
肺に異常が疑われる場合は、以下のような検査で「どのような病変か」を確認します。
<画像検査>
肺の状態を正確に把握するために、以下のような画像検査を行います。
・レントゲン検査:肺の陰影や形の変化を確認します。
・CT検査:立体的に肺の構造を確認し、腫瘍の広がりや位置、隣接臓器との関係を詳しく評価します。
・超音波検査:胸水や膿など液体の貯留を確認します。
特にCT検査は、手術の可否や難易度を見極めるうえでとても重要な検査です。
<病理検査(細胞診・生検)>
病変が腫瘍かどうか、良性か悪性かを判断するために、針で細胞を採取する「細胞診」や、組織の一部を取る「生検」が行われることがあります。ただし、肺は非常に繊細な臓器であるため、検査によって出血や空気漏れが起こる可能性もあり、実施の可否は慎重に検討されます。
<手術適応の判断>
肺葉切除を行うかどうかは、以下の複数の要素を総合的に評価して決定します。
・腫瘍や膿瘍の大きさと位置
・他の肺葉や周囲の臓器への影響
・年齢
・持病の有無
・飼い主様の希望やライフスタイル
場合によっては、抗がん剤や分子標的薬などによる治療や経過観察という選択肢が適していることもあります。必ずしも「見つかったからすぐに手術が必要」というわけではありません。
獣医師との対話とセカンドオピニオンの大切さ
飼い主様にとって、大切な家族の命を預けるという決断は簡単なものではありません。
だからこそ、手術の可否や治療方針に迷ったときは、獣医師に遠慮せず不安や疑問を率直に相談しましょう。
また、他の病院でセカンドオピニオンを受けることも、納得できる選択をするための大切なステップです。
当院でも、他院からの紹介での診察や再評価も多く行っておりますので、必要な際はいつでもご相談ください。
肺葉切除術とは?手術の流れと入院期間
「肺葉切除術」とは、肺の中で病変が生じた一部(肺葉)を外科的に切除する手術です。
犬や猫の肺は、左右合わせて複数の肺葉で構成されており、病変部のみを切除することで健康な肺葉の機能を温存しつつ、呼吸を保つことができます。
<手術の準備とアプローチ>
手術前には、全身麻酔の安全性を確認するため、血液検査や心電図、胸部X線検査などを行い、全身状態を細かくチェックします。特に犬や猫が高齢であったり、基礎疾患を抱えていたりする場合は、安全に麻酔をかけられるかどうかを慎重に見極めることが重要です。
手術は一般的に開胸手術(胸を切開して行う方法)で実施されます。しかし、最近では施設によって、胸腔鏡(内視鏡カメラ)を使った低侵襲手術も取り入れられており、体への負担が少ない分、術後の痛みが軽く、回復も早いといった利点があります。
<手術の所要時間と入院期間>
手術は通常2〜4時間程度で、術後は数日間の入院が必要になります(目安として3〜7日)。入院中は呼吸の状態や感染症のリスク、痛みの管理を行い、状態が安定してからの退院となります。
術後の回復と在宅ケア|ご家庭でできるサポート
退院後の回復には個体差はありますが、術後数日間は痛みや倦怠感が残るため、無理をさせないことが大切です。退院後は、ご自宅で以下のような管理を行いましょう。
・安静管理
ジャンプや段差を避け、滑りにくいマットを敷くなど環境を整えてください。
・投薬の徹底
抗生物質や鎮痛薬が処方されるため、飲み忘れや自己判断での中断は避けましょう。
・傷口の観察
赤みや腫れ、膿が出ていないか、毎日チェックしてください。
・食事と水分補給
術後は一時的に食欲が落ちることがあります。柔らかいフードや嗜好性の高いものを与えながら、栄養と水分をしっかりと補いましょう。
・異変への早期対応
咳がひどくなる、呼吸が苦しそう、ぐったりしているなどの異常があれば、すぐに動物病院に連絡してください。また、普段の様子を記録しておくことで、次回の診察時にスムーズに経過報告ができます。
予後と長期的な管理|術後のフォローアップ
手術の結果やその後の経過は、腫瘍の種類や広がりによって大きく異なります。
良性腫瘍や膿瘍であれば完治する可能性が高く、術後の生活もこれまで通りに戻れることが多いです。
一方、悪性腫瘍や転移がある場合は、手術後も定期的な検査や再発予防の治療が必要になります。
再発を防ぐためにも、術後は以下のような長期的なケアを継続していくことが重要です。
・定期的なレントゲン・CT検査による再発チェック
・血液検査による全身の健康状態の評価
・必要に応じた抗がん剤治療の併用
・呼吸を助ける生活環境の調整(室温管理やストレス軽減など)
特にシニア期に入った犬や猫にとっては、「病気とどう付き合っていくか」「生活の質をどう保つか」が大切なポイントになります。
無理のない運動や快適な室温の管理、ストレスの少ない環境づくりなど、飼い主様と私たち病院スタッフが協力しながら、愛犬・愛猫の穏やかな日常を支えていくことが大切です。
まとめ|専門医との二人三脚で乗り越える
「手術」と聞くだけで、不安や恐怖を感じてしまうのは当然のことです。しかし、肺葉切除術は決して恐れるべきものではなく、犬や猫の命を守り、これからの生活の質を取り戻すための前向きな選択肢です。また、術後の経過は病院スタッフだけでなく、飼い主様の正しいケアによって大きく変わります。
当院では、国際獣医資格(ISVPS)総合臨床医の認定を受けた院長が、術前から術後まで一貫して対応しております。「手術するかどうか迷っている段階」でも構いません。疑問や不安がありましたら、お気軽にご相談ください。安心して治療に臨めるよう全力でサポートいたします。
愛知県名古屋市守山区
犬や猫、うさぎ、小鳥、ハムスター、フェレットなどの幅広い動物の診療を行う動物病院
『小幡緑地どうぶつ病院』
TEL : 052-778-9377