メスの犬や猫を家族として迎え入れたあと、まず考えなくてはいけないのが避妊手術です。
動物病院から避妊手術を勧められても、「健康な動物にメスを入れるなんてかわいそう」「手術による合併症は大丈夫なの?」と不安になる飼い主様もいらっしゃいますが、こうした懸念点を大きく上回るメリットがあります。
今回は犬や猫の避妊手術の重要性について、手術を受けるメリットだけでなく、当日の流れや適切な実施時期などをご紹介します。
■目次
1.避妊手術とは
2.避妊手術の主なメリット
3.避妊手術に関する一般的な懸念と誤解
4.避妊手術の適切な時期
5.手術当日の流れと術後のケア
6.まとめ
避妊手術とは
避妊手術とはメスの卵巣や子宮を取り除くことで、人工的に繁殖能力を失わせる手術を指します。その術式には卵巣摘出術と子宮卵巣摘出術の2つがありますが、どちらが正しいということはなく、卵巣がしっかりと摘出できれば問題ありません。
避妊手術の主なメリット
犬や猫が避妊手術を行うメリットは、主に以下が挙げられます。
<健康面でのメリット>
避妊手術を行うと、以下の病気を予防できます。
・子宮蓄膿症(特に犬に見られる)
・性ホルモンの病気
・生殖器の腫瘍(卵巣、乳腺、子宮など)
特に乳腺腫瘍は、犬では初回発情前に避妊手術を実施すると0.5%、初回発情後では8%、それ以降では74%まで発症リスクを低減できるといわれています。
<行動面でのメリット>
避妊手術を行うと、以下の問題行動を改善することが期待できます。
犬:尿によるマーキング、マウンティング、一部の不安行動 など
猫:尿によるマーキング、発情期の鳴き声、一部の不安行動 など
<社会的なメリット>
生殖能力を失わせることで望まれない繁殖を防ぎ、捨て犬や捨て猫の数を減らすことができます。
避妊手術に関する一般的な懸念と誤解
<手術のリスクや後遺症>
非常に稀ですが、出血や血圧低下などのリスクを伴うことがあります。
ただし、術前の検査では体調や持病の有無をしっかりと確認し、健康な状態で手術を実施します。そのため、病気を発症してから避妊手術を行うよりも体への負担は少なくなります。
<性格や体型の変化に関する誤解>
避妊手術により、卵巣や子宮という臓器がなくなることで代謝が落ちることがあります。また、犬や猫が1日に必要なカロリーは15~20%ほど減るといわれているため、避妊手術前と同じ量のフードを与えると、カロリー過多になる可能性があります。そのため、術後はフードの種類を変更したり、量を減らしたりする必要があります。
その他にも、避妊手術を行うと発情周期がなくなるため、愛犬や愛猫の性格が「おとなしくなった」と感じる飼い主様も多いです。しかし、避妊手術が性格の変化に関わるのかについては専門家の間でも意見が分かれています。また、性格の変化は遺伝や生活環境にも大きく左右されるため、必ずしも避妊手術によって性格が変わるわけではありません。
<手術時期や費用に関する疑問>
犬や猫が若すぎると体が成熟していないため避妊手術をすることはあまりおすすめできませんが、初回発情を迎える前に手術を行うことが望ましいです。
また避妊手術の費用については大掛かりな機器を必要としないため、比較的飼い主様の負担にならない範囲で収まります。
避妊手術の適切な時期
犬や猫が避妊手術を行う適切な時期は、以下の通りです。
<犬の場合>
特に生後3カ月齢未満で避妊手術を行うと、尿失禁のリスクが高まります。そのため、当院では原則として生後7カ月齢での実施を推奨しています。
<猫の場合>
生後7カ月齢の初回発情期を迎える前が望ましいです。
しかし、手術時期は発育状態や特殊な犬種や猫種に応じて異なる場合があります。
また、高齢の犬や猫に避妊手術を行うことは可能ですが、全身麻酔などのリスクが伴うため、若いうちに避妊手術を行うことを推奨します。
手術当日の流れと術後のケア
手術当日は朝ごはんを抜き、絶食した状態で来院いただきます。ただし、お水を与えることは可能です。
術前1週間前には血液検査などの検査を実施して、異常が認められなければ手術を行います。手術自体は30分ほどで終わりますが、麻酔から覚めた直後は病院で経過を観察し、問題がなければ当日中に帰宅が可能です。
術後は痛みやストレスにより食欲が落ちることがあるため、愛犬や愛猫の様子を見ながらご飯を与えましょう。また、犬や猫が傷口を気にして舐めてしまうと回復が遅れてしまうため、エリザベスカラーを着用させる場合もあります。その後、避妊手術から10~14日ほど経過した頃に動物病院で抜糸を行い、通常の生活に戻ることができます。
まとめ
避妊手術は健康面や行動面、社会的な面においても、多くのメリットがあります。避妊手術を検討する際はメリットとデメリットを比較し、ご納得いただいたうえで実施されることを推奨します。また、避妊手術を受けるべきかどうか判断が難しい場合は、かかりつけの動物病院や獣医師に相談することが大切です。
<参考文献>
Frontiers | Aggression toward Familiar People, Strangers, and Conspecifics in Gonadectomized and Intact Dogs (frontiersin.org)
ISFM Guidelines on Population Management and Welfare of Unowned Domestic Cats (Felis catus) – Andrew H Sparkes, Claire Bessant, Kevin Cope, Sarah L H Ellis, Lauren Finka, Vicky Halls, Karen Hiestand, Kim Horsford, Christopher Laurence, Ian MacFarlaine, Peter F Neville, Jenny Stavisky, James Yeates, 2013 (sagepub.com)
Neutering in dogs and cats: current scientific evidence and importance of adequate nutritional management | Nutrition Research Reviews | Cambridge Core
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