最近、愛犬が「よく咳をするようになった」「散歩の途中で立ち止まることが増えた」そんな変化に気づいたことはありませんか?
こうした症状は「歳のせい」と見過ごしてしまいがちですが、実は心臓の病気が関係しているケースもあります。特に中高齢の小型犬に多く見られる「僧帽弁閉鎖不全症」は、進行すると肺に水がたまる「肺水腫」を引き起こし、命に関わることもあるため、早期に気づき、適切な対応をとることが大切です。
今回は犬の僧帽弁閉鎖不全症について、原因や症状、診断・治療方法、そして日常生活で気をつけたいポイントなどを解説します。
■目次
1.僧帽弁閉鎖不全症とは?
2.主な症状とステージ分類
3.原因と発症しやすい犬種
4.診断方法
5.治療方法と日常生活で気をつけること
6.まとめ
僧帽弁閉鎖不全症とは?
僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の中にある僧帽弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流することで全身に負担がかかる病気です。心臓は右心房、右心室、左心房、左心室という4つの部屋に分かれていますが、僧帽弁は左心房と左心室を区切っています。

この病気は特に小型犬に多く見られ、中高齢になると発症リスクが高まります。
また、早期の段階では目立った症状が現れない場合もありますが、定期健診で聴診を行った際に心雑音が聞こえることで発見されることがよくあります。見逃されやすい病気だからこそ、飼い主様の気づきと動物病院でのチェックが重要です。
主な症状とステージ分類
前述したとおり、僧帽弁閉鎖不全症の初期には症状がほとんど見られないことも珍しくありません。ただし、次第に以下のような変化が現れ始めます。
<初期症状>
・乾いた咳が出る
・疲れやすくすぐに呼吸が乱れ、散歩の途中で座り込む
・散歩を嫌がる
・以前よりも疲れやすくなった
・安静(熟睡)時の呼吸数が30回/分を超える
これらは老化による変化と思われがちですが、実際には心臓の異常が関係している可能性があります。病気が進行すると、以下のようなより深刻な症状が見られるようになります。
<重度の症状>
・呼吸困難(息が荒い、呼吸の回数が増える)
・湿った咳が出る
・失神を起こす
さらに、僧帽弁閉鎖不全症は国際的なガイドラインに基づいて、以下のようにステージAからDに分類されます。
◆ステージA
将来的に病気を発症する可能性の高い犬種(特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル)であるが、心雑音が聴取されない。
◆ステージB1
症状はなく、心臓の拡大も見られないが、心雑音が聴取される。
◆ステージB2
症状はないものの、心臓の拡大が見られ、心雑音が聴取される。
◆ステージC
僧帽弁での血液の逆流による心不全症状がある、あるいは心不全が過去に起こった経歴がある。
◆ステージD
難治性の心不全症状がある(標準的な治療では反応しない、外科的介入が必要な場合もある)
症状が現れていない段階でも病気が進行しているケースは多いため、ステージ分類に応じた正確な診断と早期治療が求められます。
原因と発症しやすい犬種
僧帽弁閉鎖不全症の主な原因は、僧帽弁の変性です。これは「粘液腫様変性(ねんえきしゅようへんせい)」と呼ばれ、弁の組織が厚く、柔らかくなることで、うまく閉じなくなる病態です。
原因としては明確に解明されていないものの、加齢や遺伝的な要因が関係していると考えられています。
特に以下の犬種では、若齢でも発症する可能性があるため注意が必要です。
・キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
・チワワ
・トイ・プードル
・マルチーズ
・シー・ズー
・ポメラニアン
これらの犬種を飼育している飼い主様は、若い時期から心臓の定期チェックを受けさせることをおすすめします。なお、完全に予防することは難しい病気ですが、早期に発見し、適切にケアをすることで進行を遅らせ、健康な時間を長く保つことが可能です。
診断方法
僧帽弁閉鎖不全症の診断は、まず聴診による心雑音の確認から行います。特にこの病気では「全収縮期雑音」と呼ばれる特徴的な雑音が聞き取られます。これは心臓のポンプ機能の中で、収縮している間ずっと雑音が続く状態です。
そのうえで、以下のような精密検査を組み合わせることで、病態を詳しく評価します。
・血液検査:心臓やその他の臓器にかかる負担を数値で把握します。
・心電図検査:不整脈や心拍の異常を調べます。
・X線検査(Cアーム):肺の状態や心臓の大きさを確認します。
・心エコー図検査:逆流の有無や心臓の拡大、弁の状態を観察します。
当院では、呼吸器・循環器の診療に特化した診察体制を整えており、これらの検査を総合的に組み合わせた精密な診断が可能です。また、他院からのセカンドオピニオンにも多数対応しており、安心してご相談いただける環境を整えております。
なにか分からないことやご不安なことがありましたら、お気軽にご相談ください。
治療方法と日常生活で気をつけること
僧帽弁閉鎖不全症の治療方法は、ステージごとに大きく異なります。そのため、まず現在の状態を正しく把握することが何よりも重要です。治療の中心となるのは内科療法で、以下のような薬を使用します。
・ピモベンダン:心臓の収縮を助け、心臓内での血液の逆流を軽減します。
・利尿薬:体にたまった余分な水分を排出します。
・ACE阻害薬:血圧を下げ、心臓内の負担を軽減します。
ステージAやB1では積極的な投薬は推奨されていないため、定期的な検査で病気の進行を見守ることが大切です。ステージB2以降では、病状に応じて上記のような薬を使いながら症状の進行を遅らせていきます。
また、治療に加えて、日常生活では以下の点に注意しましょう。
<日常生活の注意点>
・過度な運動は避ける
・強いストレスをかけないようにする
・食事管理を行い、適正体重を維持する
・気温や湿度の変化に注意する
治療を開始した後も、定期的な通院により心臓の状態をチェックし、そのときのステージに応じた治療を柔軟に行うことが大切です。
なお、当院では飼い主様からのご相談を丁寧にうかがい、生活スタイルやご家庭の環境に合わせた治療やケアプランをご提案しております。愛犬と穏やかに過ごせる時間を少しでも長く保てるよう、獣医師と二人三脚でサポートいたします。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は完治が難しい病気ですが、早期に発見し、ステージに応じた治療を継続して行うことで、愛犬の生活の質を高く保つことが可能であるだけでなく、長期生存率を優位にあげることができます。
「最近咳が多い気がする」「散歩中に疲れやすい」など、ちょっとした変化が見られた際には、決して見過ごさず、できるだけ早めに動物病院を受診することが大切です。
当院では、心臓の各種専門検査や継続的な治療管理に対応しており、飼い主様と一緒に大切な家族の健康を守るサポートをいたします。
なにか分からないことがありましたら、お気軽にご相談ください。
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